【時を越える愛情】

俺は両親が共働きだったから、小さい時はほとんど婆ちゃんの家で過ごした。
婆ちゃんとはよく電車に乗っていた記憶がある。
それは婆ちゃんが頻繁に俺を実家に連れて行っていたためと聞いた。
孫ができて嬉しくてしょうがなかったとのこと。

小さい頃のことでほとんど憶えてないのだが唯一覚えているのが駅にあった小さな陸橋。
あそこをおんぶされて渡るのは少し怖かった。
婆ちゃんの実家には俺が4.5歳の頃から血縁者は誰もいない。
それ以来疎遠になって、行った事も無かった。

何年か前のことだけど、会社でいろんな事が重なってボロボロになって追い詰められて自殺も考えた。
死ぬ場所を探しておくことにし、いろいろ考えた末、電車で行こうと決め、俺は高徳線に乗りこんだ。

ぼ〜っとしたままかなり長く走って、とうとう婆ちゃんの実家がある駅まで来てしまった。
でもあんまり田舎なので、何の実感もわかなかった。
降りようか降りまいか悩んでいたらドアが閉まりかけたので用も無いのにとっさに降りてしまった。
20年ぶりくらいだ。

さっきは気付かなかったが、降りたらすぐ左に、線路にまたがった、駅の出口に行くための小さな緑の陸橋があった。コレだけは覚えている。まだあったのだ、と思った。

とりあえず車掌に切符を渡した。列車が発車する。
そこは無人駅で、とても静かだった。こんなところに降りてどうする。
取り敢えず早く死に場所を見つけないと。
そう思い一人陸橋で手摺につかまり目を閉じた。

するとその時、本当に嬉しそうに小さな俺をおんぶして、何度も何度もその陸橋を渡った婆ちゃんの姿が思い浮かんだ。俺が生まれたこと、それが嬉しくてたまらなかった婆ちゃんの姿が。

急に涙が出た。自殺なんてとんでもない、自分を殺すなんてとんでもない。
とっとと帰ろうと思った。そのまま自販で切符を買って帰りの電車を待った。
もはや何もかも小さな問題に思えた。
それより孫をおんぶした婆ちゃんの嬉しそうな顔を思い浮かべると、
自分を絶対見捨てたくなくなった。

時を越える身内の愛の偉大さを感じたヨ。あの駅は、俺にとって一生忘れる事は出来ない。
そこは高徳線の中でも読みづらい漢字二文字の駅です。俺の人生をかえた駅です。


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