【オヤジの味】

名無し 2007/12/12 15:48:03
爺さんは昔そば屋をやっていたんだけど、今はお弟子さんに譲って悠々自適な生活をしていた。
それでも、お弟子さんが可愛いのか気になるのか、たまに店に顔を出してはお弟子さんの手伝いをしていた。
その日もお弟子さんの店に顔を出して、店の手伝いをしていたら出前の注文が入り、
爺さんが代わりに行ってくると申し出たそうだ。

主人たるもの店にいられる時はいるべきで、出前なんかは引退したジジイに任せておけと言い、そのまま出前に出ていった。出前先はお得意さんの警察で、行き慣れたところなので往復十分もあれば帰ってこられるところなのに、三十分たっても爺さんは帰ってこないので、おかしいと思い始めた頃、出前先の警察署から電話がかかってきた。

爺さんのバイクが、右折しようとしたトラックに後ろから追突され、意識不明の状態で病院に搬送されたとの連絡だった。結局爺さんは三日間ほど意識不明のままでそのまま逝ってしまった。

その時、お弟子さんが俺たち身内にいきなり土下座をして『俺がオヤジさんに配達を頼んだせいです。すみませんでした』と泣きながら繰り返していた。

当然、お弟子さんに責任があるなんて思っていなかった俺たち親族は、そんなお弟子さんを慌てて引き留めたが、それでもお弟子さんは床に額をすりつけたままで顔を上げようともしなかった。
そして、その姿を見た時にこれまで堪えていた涙が一気に溢れてきたのが不思議でしょうがなかった。

後日通夜の時に、病院で一緒に爺さんを看取ってくれた警察の人がやってきて、
『自分たちが出前を頼んだせいで……』と頭を下げた。

その時に叔父が『オヤジの味をそこまで気に入ってもらってオヤジも本望だったと思います。
オヤジの味はこの○○君(お弟子さんの名前)がしっかり受け継いでいます、これからもひいきにしてやってください』と言ったのが今も心に残っている。

あれから十年以上経っているけど警察の人はずっとお弟子さんの店のお得意さんのままだ。


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