【旅行好きだった母】

20年前、私は、バイクの魅力に取りつかれ、原付→中型と取った。
400のバイクで満喫していたが、時々見る750に憧れた。
当時大型免許を取ることは至難の技とされていた。
しかも私は身長165cm 体重48kgと貧弱であった。

大型なんて夢と思っていたが、750を見るとどうしても「乗りたい」と言う気持ちでいっぱいになり、無謀にも
大型に挑戦した。本試験の前の事前審査。落ちた。

兄の持っていた750を庭で、引き回し、倒しこみ、センタースタンド掛けを暇さえあればやった。
筋力をつける為、バーベルで筋力を鍛えた。
成長期を過ぎていたから、身長は変わらないが750の引き回し、筋トレで、身体は引き締まった。
その姿を母は見守っていたのだ。

本試験は6ヶ月、6回目で受かった。
うれしかった。『限定解除』と押された免許を試験場から家に向かう間ずっと見ていた。
真っ先に母に伝えようと思いながら。
母は、台所で夕食の仕度をしていた。
「おかー 750受かったよ」と、免許書の裏の押された『限定解除』を見せた。
『よかったねー』と微笑んだ。

社会人になりバイクを降りた。結婚もした。
今から5年前、母は他界した。
葬儀の時、母の兄弟から言われた。
『ねーさんが俺と合うとよく言っていた。うちの○○は、大型免許を取るため一生懸命にやった。立派な体格じゃないのによくやったとね。まるで、オリンピックで金メダルを取ったように。』
私のこれだと思ったことは、一途にやることを、母はよく知っていた。

小遣いをこつこつ貯めいたへそくりで 去年中古で900を買った。
テントを積み、ツーリングに出かける。
首にぶら下げた 母の遺品である結婚指輪といっしょに。
「おかー 日本海だぜー」「おかー 日本最南端だぜー」とフルフェースの中で大声で呼びかける。

一緒に喜んでくれた母の顔を思い浮べ、旅が好きだった母といっしょに見たこと無い土地を見に。


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