【冒険の書】

私には、兄がいました。

3つ年上の兄は、妹想いの優しい兄でした。
ドラクエ3を兄と一緒にやってました。(見てました。)
勇者が兄で、僧侶が私。遊び人はペットの猫の名前にしました。

バランスの悪い3人パーティ。兄はとっても強かった。
苦労しながらコツコツすすめた、ドラクエ3。おもしろかった。
たしか、砂漠でピラミッドがあった場所だったと思います。

とても、強かったので、大苦戦してました。

ある日、兄が友人と野球にいくときに、私にいいました。
「レベ上げだけやってていいよ。でも先には進めるなよ。」
私は、いっつもみてるだけで、よくわからなかったけど、なんだかとてもうれしかったのを覚えてます。

そして、その言葉が、兄の最後の言葉になりました。

葬式の日、父は、兄の大事にしてたものを棺おけにいれようとしたのを覚えてます。
お気に入りの服。グローブ。セイントクロス。そして、ドラクエ3。
でも、私は、ドラクエ3をいれないでって、もらいました。

だって、兄から、レベ上げを頼まれてたから。

私は、くる日もくる日も時間を見つけては、砂漠でレベ上げをしてました。
ドラクエ3の中には、兄が生きてたからです。
そして、なんとなく、強くなったら、ひょっこり兄が戻ってくると思ってたかもしれません。

兄は、とっても強くなりました。とっても強い魔法で、全部倒してしまうのです。

それから、しばらくして、ドラクエ3の冒険の書が消えてしまいました。
その時、初めて私は、泣きました。
ずっとずっと、母の近くで泣きました。

お兄ちゃんが死んじゃった。
やっと、実感できました。

今では、前へ進むきっかけをくれた
冒険の書が消えたことを感謝しています。


………………………
【冒険の書】
………………………
感動・泣ける(21人)
   ⇒投票する
………………………


このページのURL

トモダチに教える

今日の感動する話バックナンバー
にこにこTOPへ