【朝ご飯のお礼に】
大学の留年がケテーイした春休み、無性にどこか遠くへツーリングに行きたくなって、テント寝袋を積んででかけることに。行き先は決めてなかった。
時間はたっぷりあったし、予定のあるツーリングという気分でもなかったので。
行けるとこまで何日か走って、そこで1日滞在して帰って来れればそれで良しくらいの気分で出かけた。
そのまま西へ走り出したのだが、宿泊は公園とかに張ったテントでの野宿。
留年したことを見知らぬ人に愚痴って同情を買うのが嫌だったから。
あと、これからのことを一人で考えて、なんでもいいから自分なりの結論を出したかった。
そうして3日かけて、潮ノ岬に到着。そこにキャンプ道具を下ろしてテントに突っ込み、
普段の格好で1日バイクを楽しむことにした。で、朝起きたら金が尽きてたと。(藁
仕方なく小さな郵便局の前にバイクを止めて、開店を待つことにした。
海沿いの小さな集落なので、歩いてる人はほとんどいなかった。
車が大きな町に向かって走っていくだけ。
今日はどこまで行くかな〜などとボケていると、近くに住んでいるおばあさんが、
「朝ご飯は食べたかね?」と声をかけてくれた。
喜んでご馳走になり、午前中はそのお宅でマターリしてしまった。
このおばあさん、よくこうやって旅してる人に声をかけてるんだそうな。
困ってる人を助けるのがうれしいし、また出会いでもある、そんなことを言っていた。
おれはもっと話をして、ほんとは愚痴を聞いて欲しかったのだが、そういう自分をおばあさんに見せるのが嫌だったので、引き止めてくれるのはうれしかったけど、出発することにした。
一人暮しのおばあさん、訪ねてくる人もめったにいないといっていた。
今はヘタレてる俺だけど、前向きな自分になって一区切りついたら、またここを訪ねよう。
それで朝ご飯のお礼にしよう。そう思ってお別れした。
その後何とか就職した会社の研修がこちらのほうであったのでおばあさんとは2年くらいして再会することができた。おばあさんは既に老人ホームに移っていたが、そこを訪ね、あのときのお礼を言うと、なんか照れくさそうにそっぽを向かれてしまった。
1時間ほどとりとめのない話をしたが、帰り道があるので退出することに。
そのとき、俺が訪ねてきたのが嬉しかったのか、おばあさんが泣き出した。
「ありがとう・・・」って。
ホームの職員の人になだめられているおばあさんを見ながら、人に泣かれるくらいに喜んでもらえたのって、初めてだ・・・そんなことを考えていた。もうきっと、そんなに長生きできないのだろうけど、何かいいことがあったら、また知らせにこよう。
そう思いながらの帰り道、少し胸が熱くなった。
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