【駅のホームにて】

1987年2月
俺は、京都駅上り新幹線ホームに立っていた。
向かいには当時遠距離恋愛をしていた彼女がいた。
しかし、彼女との間には2月の寒さより冷たい空気が流れてた。

その数時間前に彼女から他につきあってる男の存在を知らされた。
相手は地元在住のエリート銀行マン。いわゆる二股というやつだ。
三流大学出で二流企業に勤める遠恋のサラリーマンが勝てるわけがない。
そう思うしかないと考えていた。でも、何もしないで逃げることだけはしたくなかった。

冷たい空気の中、俺が乗るひかりの入線案内が流れた。
ああ、彼女とこうしていられるのもあと数分で終わるのか…
列車がホームに到着した。そして、発車のベルが鳴る。
その時、俺は思いもしない行動に出た。

彼女の細い腕をつかみ俺に引き寄せた。それとほぼ同時にドアが閉る。
次の瞬間彼女を見て驚いた。
当然怒ってるものかと思ったが、彼女は微笑みを浮かべていた。
そして、3時間半後…俺のマンションのドアをふたりで開けていた。

翌日、彼女の着替を買いに近所のデパートに出掛けた。
その間の俺はジュエリーの売場で安い指環を買った。
それを渡した時に彼女はこうつぶやいた。
「これ、左手の薬指にハメてもいいかしら?」

あれから、15年。
国鉄はJRになり、0系新幹線も東海道から姿を消したが、あの時の指環は今も彼女の左手の薬指で輝いてる。俺の目の前で微笑みを浮かべながら…


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